【感想】NHK かんさい熱視線「悪用される“生活保護”」

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NHK 大阪放送局 | 番組情報 | かんさい熱視線
http://www.nhk.or.jp/osaka/program/nessisen/

 1月 21日(金)
 「悪用される“生活保護”」
年間3兆円に上る生活保護費を狙った貧困ビジネスが悪質化している。保護費をピンハネするだけでなく、生活保護受給者を、薬の不正な転売や覚せい剤の密売などの違法行為に加担させ、いつでも切り捨てられる手先として利用していることが、最新の取材でわかった。受給者は、どのように犯罪組織に取り込まれ、悪に加担させられるのか?闇社会への潜入取材を試みたところ、そこには受給者を取り込む巧妙な仕掛けがあった。


人ごとではなく、我がことして、将来の自分の姿の一つとして視聴した。
単なる貧困ビジネス以上の物がそこにはあり、問題とまた、それへの「健全」な意見とのズレを発見することもできたという意味で、なかなかいい番組だった。


そもそもの話、番組を見ていく中で気づいたのは、この「悪用される」という「視線」が、天下の親方日の丸マスコミであるNHK取材班の「上から目線」で出来ていることを指摘しなければならない部分が、いくつも出てきたことだった。
はっきりいって、番組中で触れられていた内容で、生活保護者にとって本当に「悪い話」は、「ほとんどない」といっても過言ではなかった。


確かに、反社会的組織=暴力団に公金が流れていくのは決して良いことではないだろう。
しかし、そこには同時に、パレスチナハマスアフガニスタンタリバンが「評価」されるのと同じ構造があった。


比較の対象がそもそもおかしいのだが、それでも貧困ビジネスにひっかかるよりも、ヤクザの「トカゲのシッポ切り」に使われたほうが、生活保護者にとって、よほどいい目を見られるのである。
以下、その番組内容の感想である。


冒頭、「2008年のリーマンショック以降の生活保護者の急増」というグラフが示され、条件が緩和されたために生活保護者が増加したのだという説明がなされる。
まるで、生活保護者になることが悪いことであるかのように。
そして、そこで「大儀」として掲げられたのが、「働くことができる人にも給付されるようになった」という制度の「欠陥」だった。


生活保護者受給者が、どのように犯罪組織に取り込まれ、悪に加担させられるのかという例として、大阪のとある地区の山口組系の闇賭博場が取り上げられた。


なぜ暴力団生活保護者を狙うのか。それに対して暴力団関係者はこう答えていた。
「(生活保護者は)汗水たらして働かないから、『13万もらった内の10万くらいなくなっても生きていける』という感覚になっている」「(そういう)タチの悪い受給者が『ハコ』(闇賭博場の隠語)に行く」というのが、彼らの言い分だった。
そして、闇賭博場で負け続けマイナスになると、闇金に連れて行かれ、雪だるま式の借金を背負わされるという末路もナレーションでかぶせられていた。
なるほど、まさしく反社会的勢力が税金を食い物にするという構図である。


ところがである。
次の潜入取材において、その様相は一変する。
インタビューに答えるとある生活保護者曰く、7〜8万を一日で無くすことも度々だという。
それでも、彼ら生活保護者がそこに行く理由とはなんだろうか。


そこでは一日中全国の違法賭博が行われ、数百円単位からかけることができ、
そして、――――――<食事が無料で振る舞われる>のである


「そこやったら一日中おれる、暇もつぶせる、話もできる、飯も食える」等々。


生活保護者の自立における最大の問題は、まず食事である。
そして、他人との関わり、コミュニケーション。
闇賭博場、ここにはその両方がある。


自立という「健全」な建前は、生活保護者にとって恐ろしく巨大な世間様の壁となって立ちはだかる。
そこにさしのべられたアジール(避難所)こそが、闇賭博場だったのである。


ハマスタリバンを挙げたのはこの点にこそある。
陰に陽に社会から疎外された生活保護者を「受容する」システムがそこにはある。


さらに、「シケ張り」とよばれる見張り役をすると、日給で1万〜1万5千ほどの収入までもらえるのだという。
毎日続ければ、月30万の収入である。
もはや、これは立派な労働と呼ばれて然るべきレベルではないのか。
もちろんこれは、「トカゲのしっぽ切り」である。
暴力団組織に直接ダメージが及ばないように、生活保護者が体よく使い捨てられているに過ぎない。
それが、反社会的勢力に与するものだとしても、「それ以外に道がない」のであれば、誰しもがそれを「選んで」しまうのではないだろうか。


別のケースでは、生活保護者がこんなことを言っていた。
「医者が金儲けのためになんぼでも薬を出す」
生活保護者の医療費は、全額税金で負担されるため、医者がいくらでも好きなように「点数」を吊り上げられるのである。
当然、そこで「余った薬」というものが出てくる。


つい先日、ホームレスにおいて精神疾患者の割合が極めて高いという調査がニュースになっていたが、生活保護者においてもそれは同様だろう。
そうして、向精神薬が大量に処方され、それが「余り」、そして、生活保護者はそれを、売るのである。
その中には、次第に覚醒剤大麻などの売人になっていく生活保護者もいるという。


こうしてまた、反社会的勢力に生活保護者が取り込まれていく。
医療という公的な仕組みを通じて……


広がる生活保護者の闇ネットワーク。
しかし、警察はこれをほとんど放置したままにしているという。
なぜなら警察が取り組むべきは、まず暴力団対策ありきであり、生活保護者ごとき小物に構っているヒマなどないのだということらしい。
だからこそ、暴力団は使い捨てのコマとして、次々と生活保護者を取り込むことができるのである。


もちろん、生活保護者に対する公的な社会福祉施設「更生施設」も存在している。
ここでの生活は、朝は6:30起床、金銭も完全に管理され、決められた日数ごとに数千円が手渡されるのみである。
昼間はハローワークやボランティア活動に行くことがほぼ義務づけられている。
こうして平均10ヶ月ほどで退寮となり、生活保護者は「自立」することになる。
ところが、自立した瞬間に一人暮らしでの生活習慣を維持できなくなり、再び更生施設に戻ってくるケースが後を絶たないという。


結局はこれも、先の闇賭博場のときにも言った、「食事と人間関係」が、お題目として掲げられている「自立」の中身から、すっぽり抜け落ちているからに他ならないだろう。


その空念仏かお題目でしかない「建前」の正しさを裏打ちするように最後に紹介されたのが、「27才の生活保護者」のケースだった。
当初は、IT系の職種を目指していたというその青年は、生活保護者となる中で、いまや何をすればいいのかわからなくなり、「働く意欲」を失っている、と番組は厳しく批判していた。
その彼も決して、完全に孤立しているわけではなく、自宅を訪問してくる「ケースワーカー」が担当としてついていることが紹介されていた。
が、そのケースワーカーも、一人で100人を超える生活保護者を担当しているという。
当然、一ヶ月に一回僅かな時間面談できればいい方だという。


ほかにも、役所かハローワークから呼び出しをかけて、直接面談をするという支援の形も紹介されてはいた。
しかし、中にはそれらの訪問や呼び出しを拒否する生活保護者もいるという。
これに対しては、なんの「ペナルティ」もなく、「働く意欲」を失ったままでいる生活保護者が多い。
けしからん、モラルハザードだと、番組の後半はもはや、闇社会のことはすっかり忘れ、生活保護者の精神の弱さ、心のあり方に対して石を投げるような論調に傾いていた。


「自立」に対してペナルティを掛けるほうが発想としておかしいとも思えるのだが……
とにかく、NHK、すなわち日本国としては、生活保護等の支援が「本当に必要な人」と「働ける人」をきっちり「区別」し、「区別するべき」で、「区別することが可能」で、それをやらないから問題が、もとい公的負担が、ふくれあがっているのだという立場だった。


なるほど、闇社会に生活保護者が取り込まれていくわけである。
これほど豪華絢爛な建前を掲げられては、生活保護者は眩しすぎて目も開けていられないだろう。
そんな建前を与えられて、彼らは本当に生きていけるのだろうか?
そんなキレイな線引きが、「区別」が、人間という生き物に付けられるものなのだろうか?


まとめにおける、「組織や仕組みの再構築」や「ケースワーカーの増員・拡充」をという堅実な指摘は妥当なものだった。
しかし、視聴者に与える印象としては、とにかく「意欲がない」ことを責め立て、一刻も早く「働く意欲」という「健常な精神」を持つべきだという精神論で、弱った人間を叩きつぶす方に偏って締めくくられていた。


が、それがきっと「普通」の精神なのだろう。




<以下の予定で再放送されるそうなので、ご覧になりたい方はどうぞ録画予約を>

総合テレビ(再) 1月24日(月曜日) 午前11:05〜11:30

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