【感想】NHK クローズアップ現代 狙われたセーフティネット

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無縁社会」で人々=下々の不安を煽りながら、自分達は高見に立って「負け組」を踏みにじるという、
NHKマッチポンプ番組第2弾。


「イライラするんだよ……」(by 浅倉威)*1


<前回の関西編>


【感想】NHK かんさい熱視線「悪用される“生活保護”」 - こころ世代のテンノーゲーム
http://d.hatena.ne.jp/umeten/20110123/p1

NHK クローズアップ現代 狙われたセーフティネット
http://cgi4.nhk.or.jp/gendai/kiroku/detail.cgi?content_id=3002


2011年 2月14日(月)放送
経済の低迷で拡充されてきたセーフティネットリーマンショック後に新設された総予算1兆円の「第二のセーフティネット」と呼ばれる失業者向けの貸付制度などが、巨額の金に目を付けた闇社会の標的にされている。その一つ、一人あたりの貸付額は最大で200万以上にのぼる「総合支援資金貸付制度」では、今月、本格的な償還が始まったが、大半が回収不能に陥る危険性が広がっているのだ。全国で一番貸付額が多い大阪府社会福祉協議会では、上限40万円の住宅準備金を不正に借りさせたり、働いても居ない会社からの離職証明書を偽造して貸付を受けたりといった不正事案が次々と発覚している。中には、貸付期間が終わったあとに生活保護の受給を申請することで、返済を逃れようとするケースも相次ぎ、背後には暴力団関係者が存在していることが明らかになってきた。「第二のセーフティネット」の現場で、いま何が起きているのか。闇社会に狙われたセーフティネットの崩壊の現場を取材し、今後の在り方を考える。


前回の番組で問題視されていた、生活保護にかかる費用は、リーマンショック後の失業者の急増により、すでに3兆円を超しているらしい。

asahi.com朝日新聞社):生活保護、最多の3兆円超 09年度、失業者が急増 - 政治
http://www.asahi.com/politics/update/0121/TKY201101210548.html


そして今回の番組で始めて耳にした言葉が、「第二のセーフティネット」。
簡単に言うと、役所で「第二のセーフティネット」の申請を行うと、様々な形での「資金貸し付け」=借金が受けられるものらしい。
予算の総額は1兆円。
詳しい内容は以下のリンク先にあるが、番組の中で、特に問題視されていた=やり玉に挙げられていたのが「総合支援資金」だ。

厚生労働省:「第二のセーフティネット支援ガイド」のリーフレットとパンフレット
http://www.mhlw.go.jp/bunya/koyou/employ/taisaku2.html


住宅賃貸費用、また敷金礼金費用などの名目で、最大で毎月20万程度が貸与される制度らしい。
しかし、「こんな話は初めて聞いた」という人の方が多いのではないだろうか?
こんな制度が出来ました、と、ニュースで一切耳にした覚えはない。
そんな「由らしむべし知らしむべからず」的なギリギリのセーフティネットを、また「悪役」として取り上げるNHKは、その同じ口で「無縁社会」が問題だというのだ。
これに二枚舌の茶番を感じるな、というほうが無理な話だ。


そして番組が始まって真っ先に触れられるのが、「制度が悪用されている」話。
もはや、口を開けば体のいいセーフティネット叩きにしかならないのか、NHK
「オタクやサブカルに好意的だからNHKはラディカルだ、だから面白いんだ」というのは、「馬」鹿がニンジンに釣られているようにしか思えない、というのはそういうことだ。


まず映されたのが、大量の宛先不明で返ってきた封書の山。
貸し付けた相手が行方をくらまし、二度と取り立てができない事態になっているということが大写しにされる。
そして次が、大量の申請の中から不審な書類のチェックが行われている審査の場面。
源泉徴収金額に対して保険料が低い」だの「会社規模に対して事業展開が多すぎる」などという、偽造書類がいくつも出されているということが示される。


この「第二のセーフティネット」の一番の肝は「前に会社で働いていたことが条件」だという点だ。
それを、「闇組織」が破るのである。
そこにはまたホームレスが「アルバイト」と称してトカゲのしっぽ切りに使われるカラクリがあった。
まずホームレスをアルバイトがあるからと、アパートに囲い込む。
そして、ペーパーカンパニーが作られ、書類が偽造され、偽名と会社の名前だけしっかり覚えろとたたき込まれた上で「支援金」を申請させる。
貸与される金は全部、組織が管理する。


インタビューに答えていた元ホームレスの男性は、それに嫌気が差し、いまは生活保護で暮らしているという。
結局、セーフティネットが就労支援に繋がっていない事態が、また明らかにされる。
いや、そもそも仕事がないこの社会において、唯一残された思う存分バッシングできる対象が、「意欲」だの「態度」だのといった、「心の問題」なのだと言ったほうがいいだろう。


「闇組織」の関係者はいう。
審査のチェックなんて「甘い」どころじゃない、大量にホームレスを抱え込んで、大量に申請すれば自ずと人的・制度的な限界を迎えて、「簡単に」金をだまし取ることができるのだ、と。


そして、先の番組と同じように、同じように(内心苦々しげに)語られていたのが、リーマンショック以降の日本のセーフティネットの変化である。
ゲストで呼ばれていた専門家は、そもそも前身の「生活支援基金」があまりに審査を厳しくしすぎたことの反動で、リーマンショック後に審査の貸付業務が緩和、拡大されたことが原因だという。
つまり、ろくに「貸金業」をやってこなかった役所が、突然貸金業をやり始めたためにこのような「スキ」や「穴」があちこちにできているのだということだ。


次の例としてあげられたのが25才の元建築業の男性。
職を失い、一時は食費さえままならない状態だったのが、「第二のセーフティネット」の「総合支援貸付」を受けることで毎月20万程度の融資を受けられるようになったという。
しかし、支援を受けることで、「就職への意欲」が減退し、結局、アルバイト先が見つかったのは7ヶ月後だったという。
その間に貸し付けられ、残った借金は約90万。返せるかどうかはわからないという。


貸付を受けると、月に一度、就職活動をしているかどうかの報告義務が課せられる。
しかし、あのハローワークのあの空気の中で長時間過ごすことが義務とされるなら、精神的にどうにかならないほうがまれではないのか。
そして、結局ハローワークも仕事が見つかる場ではないというのは周知の通りだ。
結局、貸付期間が終わったあとも仕事が見つからず、生活保護を受けることになる人が多いという。


現在その制度の「穴」、貸付の焦げ付きを防ぐために「数名のスタッフ」が「一日に数件」、訪問チェックを行っている場面が映されたが、ほとんど「成果」は上がっていないという。
こうして「第二のセーフティネット」はその7割以上が取り立て不能での焦げ付きになるだろうと予測が語られていた。


「お金を貸すだけでは就職につながらない」という実に簡単な事実にようやく気がついたところで番組はまとめに入る。


しかし、厚生労働省は、1兆円に加えさらに500億円の予算を追加して、資金や組織や人員の拡充を図り、「自立を促す」方針だという。
だが、それでは結局、「依存」を生むだけだろうとの専門家は切り捨てていた。
そして「失業保険についても同様の問題がある」といい、失業保険なら給付中に就職が決まればそこで報奨金が出る。
同じように、貸付中に就職が決まればそこで報奨金が出るようにすればいい、と対案は出すものの、そもそもが「あまりに性善説過ぎる」と切り捨てる。
そして、個別の就労ケアや、パーソナルサポートケアなども今後は拡充されていくが、そもそも普通の銀行の貸金業ならやっている「貸付中の住所確認」を一切やっていなかったことをバッサリ切り捨てる。


最後のまとめにキャスターのいう、「「第二のセーフティネット」は、生活保護と連動している」との言葉で、もはやセーフティネット叩きは「自称、庶民」の「娯楽」の域だといった雰囲気が形作られる。




それにしても、だ。


「働ける人でも受給できるようになった」という台詞。
そして、「就職への意欲」という、あたかも個人の心の問題だとして処理しようとする台詞。
これらが番組中で2、3回繰り返された。
およその30分番組でこれだけ発言されれば見た者にはこれで、「ああ、みんな<アイツら>の心が歪んでいる、ねじ曲がっているせいなんだな」と思わせるに十分だろう。


一方で「無縁社会が問題だ」と騒ぎ立てながら、いざセーフティネットの話になると、こうして「心の問題」に貶めて、その弱った人間を叩きつぶして悦に入るNHK


ここまでの支離滅裂さに気づかないとは、分裂病気質にも程があるとしか思えないし、事実、実際にそうなのだろう。


いや、もしかしたらやはりNHK無縁社会も「心の問題」だと考えているのではないだろうか。




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<関連>


生活保護は今のままでいい - Thirのノート
http://d.hatena.ne.jp/thir/20110212/p1


無縁社会」キャンペーンの恥ずかしさ - 池田信夫blog - BLOGOS(ブロゴス) - livedoor ニュース
http://news.livedoor.com/article/detail/5340108/


若者ホームレス支援|ビッグイシュー基金
http://www.bigissue.or.jp/program/index.html


主張/2011年度予算案/財界と米軍に甘く家計に辛い
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik10/2010-12-25/2010122501_05_1.html



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