【感想】NHK クローズアップ現代 若い世代の自殺を防げ

http://cgi4.nhk.or.jp/gendai/kiroku/detail.cgi?content_id=3012
2011年 3月 3日(木)放送
社会問題 医療・福祉


若い世代の自殺を防げ 〜境界性パーソナリティー障害〜
(NO.3012)
 自殺者が13年連続で3万人を超えた日本。国が中高年の自殺対策を進めるなかで、見過ごされてきたのが20代、30代の人たちだ。こうした若い世代の自殺に「境界性パーソナリティー障害」という精神疾患が深く関わり、自殺リスクがうつ病より高いと見られることが最新の調査で明らかになった。この精神疾患は、身近な人から見捨てられることへの強い不安が特徴。突然激しい怒りをあらわにするなど感情の起伏が大きく、リストカットや過量服薬を繰り返す。患者への接し方が難しいことから診療をためらう医師も多い。行き場を失う患者や家族を取材し、立ち遅れる日本の精神科医療の課題に迫る。


今日のクローズアップ現代は「境界性パーソナリティー障害」、略して「ボーダー」とその症状や治療について取り上げた回だった。
「最新の調査で明らかになった」という割に、見た感じ、特に、目新しい情報はなかったのではないかと思うが、ざっとまとめておく。


データが示され、境界性パーソナリティー障害は、その2年後の再発率が、うつ病の35%に対して、その約二倍の67%。
そして、特に若い世代、20代〜30代にかけての患者を診た場合、退院後の自殺率が10%にも達しているという。


取り上げられた事例は二つ。
一つはリストカットで、いま19才のその女性は小学生の頃から、リストカットを繰り返し、それで「ホッとする」「安心する」などと答えていた。
回復しつつある彼女曰く、「1%でも理解してくれる人が100人いたら100%になる」。そういう考えを持つことで精神的な安定を得られるようになったという。


もう一つが番組のテーマである自殺。
19才で自殺した女性は、「死にたい」ではなく「死なせてくれ」と家族にむかって叫んでいたという。
ここにうつ病的な「死にたい」が「死への義務感」であるのに対して、ボーダーが「生への義務感」に縛られて苦しんでいるような感覚を受けた。


それがいわゆるボーダーの「感情のジェットコースター」と呼ばれる特徴で、その「見捨てられ不安、怒り、自傷、空虚感など」が自分の中だけに止まらず周囲を巻き込んで、症状を悪化させていくのだという。


なぜ、20代〜30代にかけて患者が多いのかという問いに対しては、元々衝動性が高いライフステージであることが挙げられていた。年を取ることである程度、緩和されていくのはそのためだ、とも。


そして、国内の患者数の統計はいまだにないが、アメリカのデータを参考にすると、人口の1〜2%、つまり100人に1人か、50人に1人はボーダーを発症しているということになるという。


発症の原因についてもいまだ不明で、脳の機能障害に加え、社会文化的な要素が数多くあると指摘されていた。
例えば、「先進国にはあるが、発展途上国にはない。また、都市部にはあるが農村部にはない」などや、養育環境が良くなかった場合に、発症するのだという。


こうした原因を背景に、患者数は確実に増加しているとされた。
おそらくは、発達障害の場合と同じく、元々存在していたものが、その存在が知られたことで「発見」されていく数が、増加に見えている点もあるものと思われる。


対処の方法について、重要なポイントとしてあげられていたのは「感情のジェットコースター」から「降りる」ことだった。
つまり、周囲が患者本人の気分の変調に巻き込まれずに、「別のものの見方」をもつことが、問題解決の糸口として示されていた。
また、家族の協力があるとより治りやすいとも。


ボーダーの治療法についての側面では、ボーダーの家族会の様子が映され、何人もの患者が病院で受診を断られて行き場を無くしている現状が語られていた。そして、病院から見捨てられた結果、本やネットという偏った情報源に頼らざるを得なくなっていくという悪循環が生まれているという。


対する医者の側からすると、ボーダーはその攻撃性が極めて強く、治療者に対しても攻撃を加えてくる。
また、治療中に飛び出したり、飛び降りたりするという衝動的、突発的な行動が多く、対処しきれない。
そのために、治療者としての意欲が下がったり、トラブルを抱えることを避けようと、治療を事態を断っている現状があるという。


もうひとつは、日本にボーダーの専門医がいないことが挙げられていた。
国や厚生労働省は、ボーダーと自殺との関連性は認めながらも、具体的な動きは何もしていないという。


一方、ボーダー治療の先進事例としてあげられていたのがオーストラリアである。
ボーダーが自殺対策の主要なターゲットとして位置づけられ、ボーダー治療専門の施設が作られ、医者と臨床心理士がペアを組み、心理療法でボーダー治療にあたっている。
その結果、ほとんどの患者が約2年で回復していくという結果として表れているという。
また、そこで得られた治療法のノウハウは、平行して地方の病院へと広めていく活動が行われることで、患者間の不利益の格差が少なくなるような政策がとられているという。


翻って日本ではというと、自殺対策の主要なターゲットは中高年で、若者はほとんど見過ごされている。
ここでも、若者殺し、若者を見捨てる国、超少子高齢化が進むお国柄の「老尊若卑」の姿勢がありありとみえる。
さらに、医療的な面では、心理療法に点数が付けられず儲からないから誰もやりたがらないという問題もあるという。


さいごに、新しい治療法や新しい原因の解明など次々となされているという希望が示されてはいたが、はたしてそれが、患者に届くのはいったいいつになるのだろうか。


さんざんまたされた挙げ句、死んだ後になって支給開始される年金のような光景が脳裏に浮かぶ。






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