「炎のルーキー」誕生!!

「西村投手」。
彼は、甲子園で優勝し、高校卒業後、ジャイアンツにドラフト二位で入団した「ルーキー」である。
普通であれば枕詞に「期待の」とつくのが慣例であるが、それをつけなかったのは、ごく単純な理由による。
もし彼が、「プロ野球」というレベルにおける「期待のルーキー」であれば、開幕して既に3ヶ月が過ぎた7月に入ってから、デビュー戦を迎えるなどということはまず、ありえないからだ。もし彼がそうであったなら、遅くとも4月の第三週までに登板し、「史上最強打線」を支える「大黒柱」としてスポーツ紙などでも華々しく取り上げられ、今や全国に名が知れ渡っていただろうからだ。
だが、彼――西村投手はそうではなかった。明らかにそうではなかった。
なぜなら、彼が始めて全国中継される野球場という舞台に登場したのは――、すでに阪神、福原投手が完封ペースのピッチングをみせ、4点という大差をつけられているという――、うがった見方をすれば、それはまさに「敗戦処理投手」としてであった。
これには正直、にわかサッカーファンとなった私も少々驚いたと共に、ジャイアンツ監督堀内の無能振りを改めて気づかされることとなった。そして、解説していた前阪神監督、星野仙一氏もまた、「彼(堀内)には選手を育てようという気が見られない。こんなところで使わなくても・・・・・・」といい、やや憤りを見せていた。
彼――西村投手の実力がどの程度のものなのか、野球をやったことがない身からすれば「まるきりわかんない」というのが本音である。しかし、「高卒ルーキー」の「デビュー戦」だというアナウンスを聞く限り推察できるのは、本来であれば、「来年度(入団二年目)に新人賞を狙うというレベルの投手」だということであった。つまり、彼は「プロ」というレベルにまだ達していない――「野球選手」だったのである。
であれば、
復活し、勢いづいた阪神打線を見る限り、何かいやな予感(阪神ファンからすればうれしい予感)がするというのは当然の結論であった。また、「炎のストッパー」河原*1を慕う身からすれば、何かステキな予感に胸がときめくというのが、正直なところであった。
そして、案の定――
阪神は打った。打って、打って、打ちまくった。
ショート強襲のライナーはフェアになり、センターフライかと思いきやフェンス際に落ち、レフトフライかと思いきやホームラン。
これでもか、これでもか、これでもか、と。容赦なく厳しい人という形容がふさわしい、いや、まさに鬼の所業というにふさわしい、安打安打の雨アラレ。しかも、そのほとんどが長打。気が付いたころには、なんと、6点もの大量点が阪神に入っていた。
この時点で、10−0。もはや試合は完全に決していた。
西村投手はアウト一つ取るのが精一杯であった。そして――、降板。
一回三分の一を投げて、彼の長くて短い、本当に長くて短い、デビュー戦は幕を閉じた。
防御率、162.0。これが、彼のデビュー戦の成績である。
草野球でも、島本和彦でもここまでやることはないのではないだろうか*2


ちなみに代わった条辺投手は、いきなりアリアスに初球ホームラン。
これで、11−0。


2アウト後に打席に立った完投目前の福原が、お情けで、いかにもやる気なく、バットを三回振り回さなければ――しかも、その振った球が全てボールであったことを考えると――、条辺投手もまた何失点していたかわからない。ストライクの取れない同じポジションの敵選手を気遣う福原の、このやさしさ。
それは、せちがらい世の中にほのかな暖かさを感じさせるものであった。
そして九回表、福原はあっさり、きっちり、しっかり、100球で完封勝利。
「今日はこの辺でゆるしといたろ」。
アナウンサーのこの一言に尽きる、尽きてしまうほど、近年まれに見るトホホな試合、いや、ホットな試合であった。なぜなら、河原無き今*3ジャイアンツの命運を握る*4、新たなヒーローが誕生したのだから――。
その名は西村。「炎のルーキー」西村。


この名を覚えておいて、損は――――――ない。


そしてもう一つ、「福原(完封)の半分はやさしさでできている」。 *5

*1:巨人の選手です念のため

*2:逆境ナイン』での100点差というのも、肝心の不屈闘志(主人公)がいない間の出来事ではなかったか

*3:ただいまファームで絶賛故障中

*4:ある意味実に正しい表現です

*5:このやさしさが「プロ」の証なのか――、「何点差であろうが勝てばいい=無駄な得点はしないという意識」。これがいいか悪いかについては、「スポーツ真理教・脱会マニュアル」参照→http://d.hatena.ne.jp/umeten/20040623trackback