オウム真理教、地下鉄サリン事件10年

10年前のこの日、私が美術館から帰ってくると、終業式帰りの弟がなんか昼間っからテレビでニュースを見ていた。
「ん?なにそれ?」と聞くと、
「地下鉄で毒ガステロやって*1」と言う。


「・・・へ?フランスかイギリスかどっかか?」


そういうテロというものはイギリスなりフランスなりといったヨーロッパで起こるものだと思っていたし、何より地下鉄と言えばやっぱりイギリスだったりフランスだろうというイメージを持っていた。


「うぅん日本やって」
「はぁ?」
「東京やって」
「えぇ?東京!?なにそれ?何で?!」


それがいつ、どのようにして、「オウム真理教による事件」だとわかったのかは忘れてしまったが、次々と幹部が逮捕されていく中で、事件の全体を知るはずの人間がTV出演をしていたその直後に右翼構成員(?)に公衆の面前で刺殺されるなどという、またも衝撃的な事件も起こっていた。
それに増して、なによりも衝撃的だったのはやはり、教祖麻原彰晃松本智津夫)逮捕に至る一連の騒動だろう。あの無機質なプレハブ小屋の大団地に完全装備の機動隊員が大挙して押しかけ、床下に札束を抱えて潜んでいた「グル」が逮捕された瞬間は、日本中がやんやの声を送ったのではなかったか。
団塊の世代には「浅間山山荘再び」といった様相に見えたのではないだろうか。
その日の朝ニュースでそれを見て、私は図書委員の春休み中の仕事である書籍整理に出かけた。
教祖の逮捕。
だが・・・・・・それからが長い、そして先の見えない事件の始まりだったのだ。
それ以後も警察庁の長官が狙撃され暗殺未遂されるなどの事件が起こり、またサリンをまいた実行犯の何人かは今も国内外を逃亡している。
その実行犯のうちの一人、石垣島で逮捕された林泰男は、その逃亡途中、なんと私の高校の通学路のまさに途中にあるアパートに潜伏していたなどということも報道され、なんとも驚いた記憶がある。
実際それがアパートだということは、そういう風に報道されるまでほとんど意識したことのなかったことであり、それだからこそ、そのやや高架下の影に隠れるような立地の、入り口が一階店舗に押されて奥まったようなつくりになっているそのビルが、隠れ家として選ばれたのだろうと、それ以後、前を通るたびに納得していた。


そして、個人的な記憶としては、その少し前に読んでいた本のあとがきで、このようなテロが予言されていたかのような記述に出会っており、そのことが私を人知れず興奮させてもいた。
その本というのが、次の三冊である。
C.S.ルイスの別世界物語三部作『ペレランドラ』ISBN:4562034475『マラカンドラ』ISBN:4562034467『サルカンドラ』ISBN:4562034483
そして、このあとがきこそ、三巻『サルカンドラ』の、あの荒俣宏によって書かれていた文庫版のあとがきにこそ、
オウムの出現を予言するような一言が書かれていたのである。
ややうろ覚えではあるがその一文を記すと、それは、
「科学と宗教を融合した集団こそが新しいテロリスト集団として出てくるだろう」
というものだったのだが、その本を読み終わって一月にもならないうちに、現実としてオウム真理教による毒ガステロ事件がおき、
私にとってその荒又氏のあとがきの一文は、まさに予言の書として感じられたのだった。

*1:ちなみにこの「やって」なる言葉のニュアンスは「伝聞」を意味する