モテツールとしてのオタク ②

さて、続けよう。「モテツール」となりえるオタク的なモノについての話だ。


それが第一に何を目的とするのか。それが、最大のヒントとなる。
つまりは、「異性の気を惹くことが目的」なのであり――、そのために利用可能なものとは何かということになる。そして、より端的にいうならば、
――女性の気を惹くために効果的なモノとは何か、それを問うことになる。


だが、もちろんこれは「オタク的なモノ」にジャンルを限ってのことになる。そこには、ブランドも希少性も高価な宝石や貴金属の類も存在しない。


とはいえ、世の中にはダイヤがちりばめられたキティちゃん人形や、サザビーズで数千万の値が付く村上隆のフィギュアなどというものもある。確かに、村上隆の作品であれば、サブカル好みの女性の気を惹くことは可能かもしれない。
――が、それはそもそも「ツール」として認識されるための一般性を明らかに逸脱している。女性の気を惹くために村上隆の作品を落札するほどの財力を持つものであるならば、そもそもその財力をこそ「モテツール」としていることになる。
金銀ダイヤのファンシーグッズも同様である。


そこまで行かずとも、手の届く程度の価格帯のものであれば、数量限定のガレージキットや、初回限定版の品々の数々というものも、挙げられることは挙げられる。
――だが、そこまでのものを欲しがるような女性がもしいたとするならば、それはもはや彼女自身、オタクと呼ばれてしかるべきレベルにまで突き抜けた、専門性を身につけた特殊な存在であると断言できる。
また、そのような相手に出会ったとしても、それはむしろ幸運というよりも、些細な好みの相違をめぐって角を突き合わせることになるような、不幸なことなのかもしれない。


話を具体的なレベルに、可能性のあるレベルに戻そう。


高額商品や「芸術品」、あるいはオタク的な希少価値をもつものが、「ツール」足り得ないことは確認できた。
では、どのようなものであれば、「モテツール」としての使用が可能であるといえるのか。
――そんなものはありえない?いや、「ありえないものは、ありえない」。
そのヒントは、オタクにとって、最大にして最凶にして最強の敵であるところの、例の邪悪な黒いネズミとその眷属どもが握っている。


そう、著作権帝国ディズニーのことである。


「それら」がいかに女性に「愛されて」いるか、つまり、ありとあらゆる手段でもって財布から金を吸い上げ、なおかつそれを喜びと錯覚させているかを、今のこの国でいちいち事細かに説明する必要があるだろうか、いいやありはしない。*1


「それら」が、なぜ愛されているのか。ここは脊髄反射で答えてもかまわない場面だ。
――「カワイイ」からである。


だが、そこでもう一度立ち止まり振り返るのが、この試考の試考たるゆえんである。
――では、「カワイイ」とはどういうことか?なぜ、「それら」は「カワイイ」のか?


それはつまり、「それら」が「中性的」に描かれているからである。いや、ここは「非性的」というべきだろうか。そう、それこそが「カワイイ」の成立する第一の要件である。
キャラクターからの、作品世界からの「徹底した性の剥奪」。
それは、人間の描かれ方に最もよく現れている。そこには、手塚的曲線の持つエロティシズムのまるで対極に位置するような、切り絵のように角ばったゴツゴツとした岩のような人間が登場する。
「非性的」であることが「カワイイ」の要件であることが納得できない向きには、もうひとつ別の例を提示しよう。
今、女子高生に「カワイイ」の大歓声で迎えられるお笑い芸人、「アンガールズ」のことを思い浮かべてもらいたい。さて、彼らははたして「非女性」であっても、「男性」であるだろうか?彼らがいわゆる「男性」としての魅力をもって受け入れられているのか否か、少し考えてみてもらいたい。


また別に、「それら」を持つことが「幼児的だとみなされない」という点も重要である。
あのキャラクターのどこが「幼児的」でないというのか――明らかなネオテニー的造形ではないか、そう問う声もあるだろう。
だが、ここでいう問題は「幼児性への肯定」であって、「造形の幼児性」のいかんを問うものではない*2。つまり、それらを持つことが、「幼稚な行為である」として社会的な否定にさらされない、ということである。
確かにこれは、ブームを契機として定着した後の話ではある。しかし、いったん「制度」として社会に定着したあとは、容易に再生産が成しえるという点で示唆的である。




さて、これらの要件に当てはまるオタク的なものがはたしていくつあるだろうか?(続く)

*1:――もし、私がエルフの言葉を解するものであったとしたら、流れんばかりの呪いの言葉を三日三晩にわたって紡ぎだすことも容易にできただろう。

*2:「造形の幼児性」の問題であれば、先の第一の要件、「非性的」であることと同じになってしまう