「人間力」という宗教

人間力
他律的な感情を内面化し、それを無自覚的に駆使すること。
 感情をあたかも自己の外部に存在する人類共通の絶対的基準、絶対的価値として崇め立て、その「普遍的な感情」「自然な感情」を内面化することを強制する宗教。


外在する外面的感情のみが「正しい」ものだとされ、
内在する内面的感情は「異常」であり「心の闇」であるとして完全否定される。


この前提として、「すべて感情とは想定の範囲内のもの」、「感情とは想像の及ぶ範囲内のもの」、「感情とは人間の理解が完璧に及ぶもの」である、いや、「あらねばならない」という意識が根底にある。


この「人間力」において、「理解できない感情」というものは存在してはならないのである。


これはむしろ、人間の持つ感情を、根源的な意味での人間の力を侮蔑している思考である。
一見、感情を称えているように見えて、その実、底知れぬ人間の感情を「理解の及ぶ範囲」に貶めるものである。


そして、そこには「人間とは完膚なきまでに管理可能なものである」という、全体主義的な欲望が暗い笑みをたたえて潜んでいる。
――だからこそ、「人間力」において個性は否定されるのである。