映画『盲導犬クイールの一生』が実に「リアル」で「陰影」に富んでいるという話


正直、見てらんない。まあ見たんですけどね。
今だからこそ*1「リアル」だと感じるのだが、にしても、映画館で見なくて良かったと思う。
まあ、その「見てられなさ」こそが、崔洋一監督の狙いなのだろうけども、あの希望に満ちた看板とポスターからは想像もできない、深刻で悲惨なシーンを重ねに重ねて、深々と重い話を作るというのは、「メッセージのためだ」と安易なグロテスク描写に走りがちな最近のアニメ風でもあり、ひねりがなくてストレートすぎて、結果、興味を削がれる。




カワイイ子犬時代や、ズッコケ訓練時代もそこそこに、メインとして描写されるのはヤクザを引退したような荒れた中年男性との生活……というか、盲導犬をダシにして「ある種」の中年男性の人生の悲哀を描くことがこの映画の主眼となっている気がしてならなかった。
別に視覚障害者を描いたから暗いとか、障害者が主人公だから暗いとかいうのではない。
現実的な影とでも言えばいいのか、それが実に暗い。
シリアスに暗いのだ。




クサイ芝居の訓練教官、暗い。
荒れた性格の主人公、暗い。
ブロックを積んで作られた長屋風の集合住宅である主人公の家、暗い。
糖尿病を患う主人公、暗い。
じゃりん子チエばりの下町風少年少女子役、暗い。
病状が悪化し入院生活を送る主人公、暗い。
死んでしまう主人公、暗い。
盲導犬として働かなくなった犬、暗い。
引退して衰弱していく犬、暗い。
苦しみながら死んでいく犬、暗い。




ああ、暗い。これでもかというほど暗い。




もちろん「元気に明るく明日を信じて前向きに今を生きる視覚障害者賛歌!!」
というのがウソ臭いと言うのもわかる話だが、それにしても盲導犬の広報的映画において、こうまで「陰影」を色濃く描写する必要があったのかどうなのか。
盲導犬クイールの一生」という看板なのだから、もっとホームドラマ的に、そしてしっかりと犬を主人公にして「盲導犬の一生」というものを描く方向に行けばよかったのになあ、とつくづく思った。
崔洋一にそれを期待することが無茶なのか。*2




それに比して見れば、誕生のシーンの家やパピーウォーカーの家のなんと「明るく」、そして「ウソ臭い」ことか。
あとの「陰影」に比べれば、まさしく現実の影などどこにも差さないような、人工的、模造的なシーンに見える。
だが、その容赦のない「陰影」は、しっかりとそこにも差し込むのだ。
冒頭の「明るさ」をかき消す、否、打ち消す中軸の「陰影」の数々。
そして、犬が老いて、育ての親たるパピーウォーカーの家に戻った後の一瞬の人工的、模造的「明るさ」を、犬が苦しんで死ぬシーンでもってしっかりと破壊して、映画は幕を閉じるのである。




それにしても暗い。
ホント、暗い印象が深々と残る映画なのでありました。



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*1:余計に

*2:なんといっても『血と骨』の監督だからなぁ……