機械化帝国Googleが破壊する「生身の人間」

Google マップ日本版にも「ストリートビュー」機能--道路に立って街中を見渡せる:ニュース - CNET Japan
http://japan.cnet.com/news/media/story/0,2000056023,20378334,00.htm?ref=rss


ご存じない方もいるだろうが、本日、Google マップ日本版に「ストリートビュー」という市街地・住宅街の盗撮画像がUPされた。
撮影対象となっているのは、主要幹線道路のみならず、文字通りの一般住宅街にまでおよんでいる。
「今回」の撮影対象となった地域では、車が入れる程度の路地ならほぼすべてが撮影されているという、異様な入念さである。
その写真の中では、付近の住民の日常の無防備な姿がとらえられており、また誰も自分が撮影されていると思っていない様子が一目で見てとれる。
また、路地に入った写真では、個人の住宅の玄関や窓の様子、駐車場の車の種類やベランダに干してある洗濯物までわかるくらいにしっかり撮影されている。


この画像は今後、フィルタリングやゾーニングなどの制限を一切受けずに半永久的に公開され、あまつさえ「今後」さらに盗撮地域が「拡充」されることが予想される。
撮影はご丁寧に360度カメラで行われており、撮影写真表示ポイントで画面上に表示された矢印をクリックすると、あたりがぐるりと見渡せるというシロモノである。
さらに、画面上をマウスでドラッグすると、たとえばビルであれば一見して映っていないように思えるその壁面の上端まで、つまり、撮影ポイントの真上の空まで見上げることができるのだ。


その盗撮車(少なくともその一台)はこちらのブログによると、「Googleロゴをつけた銀色のプリウス」らしい。

富良野旭川間の国道237号線でGoogle Mapのストリートビュー撮影車を目撃した!! - かぎっ子が虎視眈々と
http://d.hatena.ne.jp/dustytrombone/20080731/1217505115

このGoogle社の360度カメラ搭載盗撮車がいつ犯行を行ったのか。
その京都における例について簡単にプロファイリングする。
個々のリンク表記はしないが、見つかった範囲の証拠から盗撮犯行時期を推定する。


証拠1:旧京宝映画館跡地に「ミーナ京都」が建っている。

ファーストリテイリング関西初商業施設「ミーナ京都」、4月オープンへ - 烏丸経済新聞
http://karasuma.keizai.biz/headline/397/

建設途中に通りがかった記憶をたどると、覆いがとれてしばらくは内装工事をしていたので、OPEN前である可能性もあるが、すでに1Fには店舗看板やカフェの椅子などが並んでいる。
また、上方を「見上げ」ると、2F以上の壁面にも店舗の看板が見えている。
よってここでの盗撮犯行次期は四月以降だという推定ができる。


証拠2:一部住宅地の写真には残雪が見られた。
確かに今年の冬は珍しく雪が降ることが多かった。そして、その時期は2月である。

京都の過去の天気 2008年2月 - goo 天気
http://weather.goo.ne.jp/past/2008/02/759/index.html


証拠3:旧三和銀行ビルが解体されている。
2008年1月時点では、すでにビルの解体は終わっていた。

四条烏丸あたり - folkragの日記
http://d.hatena.ne.jp/folkrag/20080110/1199978739


以上のことから推定して、Google社の盗撮は、2月から4月にかけて断続的に行われたものと思われる。
また、ポイントによっても異なるが、多くの撮影地点では太陽が東からさし、影が西へのびている様子が見られた。
しかも、その写真には、散歩中・通勤中とおぼしき人が映っていた。
つまり、盗撮は交通量の少ない、朝の8時ころから始められているものと推定できる。




この「ストリートビュー」という市街地・住宅街の盗撮画像については、先この「サービス」が始まったアメリカですでに社会問題化されている。

Google幹部の自宅をプライバシー保護団体がさらしものに - ITmedia News
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0808/04/news026.html


記事から見られるGoogle社の「無邪気な自称、中立」には寒気がする。

Googleは、ボーリング夫妻宅の私道に入って写真を撮ったことは認めながら、「現代の衛星画像技術では、現代の砂漠においてさえも完全なプライバシーは存在しない」と主張。
書面では、Googleが写真を撮った場所から見たボーリング邸の光景はプライベートなものではなく、衛星画像で既にこの家の同じような写真が出ていると反論した。


「技術的に可能なら何をやってもかまわない」というのなら、日本政府は少子化による労働力の減少を補充するためにクローン人間を量産すればいいのである。
世界規模で発生している食糧問題の解決に、遺伝子組み換え食物が大量生産されるべきなのである。
なぜ、それが世界的に禁止される流れとなっているのか?
それが理解できないというのなら、Google社は「人間ではない」。「機械」――文字通りの情報機械だ。
これはプライバシーの侵害というレベルの問題ではない。
生身の人間、人間が生身の存在であることへの加害行為だと言っていい。
一個の人間がおよそ受容することの不可能な量の情報を押しつけ、「技術的に可能な条件」イコール「常識」なのだと言ってのけるその態度は、まさに超国家的な政治主体の放つ暴力そのものである。


そしてこの問題は、「予告.in」にも通底するものである。
ストリートビュー」と同様の「技術的に可能なら何をやってもかまわない」という精神に支えられた、「疑わしい解釈ができる書き込みは即通報」というあの「機械」が、侵害しているのは表現の自由や、言論の自由などというレベルではない。
生身の身体を持ち、偶然によって支えられる、人間というあいまいな存在そのものに対する加害行為である。
不完全さに基礎づけられた知覚統合体であるという人間の根本条件を頭から否定しつくすものである。


予告.in」の問題をさらに俯瞰すれば、それは「厳罰化」を求める風潮ともつながっている。
一度過ちを犯した人間は、二度と社会に復帰させず、即座に殺してしまえという現在の風潮は、まるで人間を「完成された近代的自我」という「一つの理想=自然な運命」へとへ向かう「機械」のように見なしている。
そして、その生産ラインからこぼれ落ちた不良品は、原材料のレベルにまで解体処分する、というわけである。


ストリートビュー」に反発するなら「予告.in」にも反発しなければならないし「厳罰化」に対しても反発しなければならない。
逆に、そのような一連の「機械化」こそが時代の流れだ、それこそが「正しい」のだというのなら、「厳罰化」を拡充し「予告.in」を発展させ「ストリートビュー」が拡大していくよう従順に積極的に支援し協力し協賛すればいい。


「生身の人間」の限界を認識せず、あたかもSFじみた電脳化が行き渡ったかのように情報処理を知覚認知と同義に扱い続ける限り、生身の存在である人間と「機械」との致命的な不具合は確実に拡大していくだろう。


そして、その機械と生身の狭間でこそ、パルチザンレジスタンス=テロリストは生まれるのである。


「セキュリティ」!


それこそがテロリズムの「本質」なのだ。



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