扇動者としての文化人

私は、アカデミシャンとしての内田樹氏は信頼しても、文化人としての内田樹氏は信頼しない。
この二点の差異が混同されたときに、以下のような批判が出てきているのではないだろうか。

内田氏に限らず、現在の日本のエスタブリシュの多くが目指しているのは、一種「奴隷制資本主義」とでも呼ぶべき資本主義の一形態であろうと思われます。

その正体は、「資本」や「文化資本」によって地位を堅持するごく少数の「支配階級」と、その下で「支配階級」への上昇チャンスをちらつかされながら知的能力を吸い上げられる少数の「市民階級」、そしてチャンスすら「断念」させられ、単に労働を「贈与」することにのみ喜びを感じるように教育された多数の「奴隷階級」からなる階層社会です。

生存適者日記 - 奴隷制資本主義

この「文化人」という存在ほど始末に終えないものはない。
たとえば、
私は京都に住んでいるので、ローカル局である京都テレビ*1を、たまーに、ついうっかり見てしまうのだが、そこで毎回毎回どんな話題ででも大きな顔をしているのが、堀場製作所の堀場厚会長だ。
そして、その発言たるや到底生産的なものとは思えない。それどころか有害無益な老人の夢想・空想・連想レベルの発言がほとんどだ。にもかかわらず、「ありがたいご発言」として珍重され、奉られている。
――いい加減、ジジイは退場しろといいたい。
そしてまさに先日の発言は、子供たちを「単に労働を「贈与」することにのみ喜びを感じるように教育」しろというものであった。
それは伝統産業――職人的な仕事の話題であったかと思うのだが、そこでの発言の要旨はというと、
「ものつくりという伝統技術の素晴らしさをもっと子供たちに教育していかなければならない。これは教育の問題だ。伝統を教育しないから、サービス業、三次産業に人が流れていくのだ。もっと二次産業に人を増やさないといけない。」などというものであった。
 

「労働」の問題をすべて「教育」の問題として還元し、それで「自らの望む美しい世界」を形作ろうという、かの老人の表情は実に満足げなものであった。


伝統産業で働くということの意味を一体どれほど理解しているのか。いや、到底理解などしているはずがない。
そこは、まさに宗教的情熱をもった者でしかそれを続けることが困難なほどの薄給の世界だ。無給に近しい状況で何十年を費やし、そして、その対価としてごく一部の人間に与えられるのが、おためごかしの名誉だ。
薄給と名誉という、ゆがんだシステムになっているのも、そもそも需要がないからである。
「需要と供給」というその残酷な原理を振りかざす市場でもって成功した人物自らが扇動し、若者を死地へと向かわせるのは、見事なまでの無責任、無自覚の悪であるといっていい。


老人自らが「物質的豊かさ」を享受しながら、若者には「精神的な豊かさ」を押し付けるというこの素晴らしさ!!
文化的、あまりにも文化的!!


また、この社会が、そもそも過剰消費、余剰消費で支えられていることも、夢見る老人には見えていないらしい。過剰消費を担うことなど到底出来ない人間を増やすということが、一体どういう結果をもたらすのかについても想像が及ばないらしい。
――サイレントテロリストとしては、それはそれで別に結構なのだが。


「文化人」という存在ほど始末に終えないものはない。




『新しい歴史教科書』がクズなのも、アレが歴史学者じゃなくて文化人が書いたものだからだ。
島田雅彦がクソッたれなのも、彼が「文学者」としてではなく「作家=文化人」として発言しているときだ。


<追記>
この「文化人」考について、この記事(http://d.hatena.ne.jp/ueyamakzk/20050714#p3)を読んでこうも感じた。
そう、これはまさに「滅私奉公」の思想だ。
「「伝統」とか「文化」とかいう「公」を称するものに無私無心に身を捧げろ」というイデオロギーだ。
そして、それを立場の強いもの(老人)が立場の弱いもの(若者)に対して強いようとしているのだ。――あるいは、「伝統」という虎の意を借りて、穴に追い込もうとしているのだ。


またそのすぐ上(http://d.hatena.ne.jp/ueyamakzk/20050714#p1)では、内田樹氏の発言の、「直感性*2」や「実感性」「体感性」の存在についての指摘がなされている。*3
文脈の含意が読み取れなくても、思考のバックボーンを知らずとも「わかる」と感じる人がいることは、興味深いと同時に危険な箇所であるとも感じ、…とはいえ、実に「特徴的」な部分だ。
先に書きかけた「カリスマ扇動者」の考察は、このような点についても言及をしようとしていたのだが、まだ書けていないというオチ。この項が、その関連エントリであることだけは一言申し添えておこう。


しかし、この「体感」「実感」の危険性は、その長年来の指摘にもかかわらず、こうしてその勢力と支持基盤を残していることは、脅威と断じるべきか。それとも、その利を探るべきなのか。*4
――モヒカン族、あるいはモヒカニズムに準じる、モヒカニストからすれば、徹底的に断じるべきなのであろうが、例の判定で「似非モヒカン族」と判定されてしまった罠。*5*6



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4 フランスのテロリズム研究書
5 本格的な入門書

*1:テレビ東京系列であり経営能力も番組制作能力も劣るくせに、関東よりも劣ったアニメ放送枠しか持たない許すべからざる放送局。クズ番組でお茶濁すくらいなら一日中アニメを流せというのだ(極論)。

*2:直観性にあらず

*3:そこで引用されたコメントにある、「お前の文章は面白くないから、俺が楽しめるように書き換えろ」というコメント(大意)は、当然の事ながら「議論」でも何でもない。

*4:たとえば宗教思想、哲学的思想においては、これが極地ともなり、仇敵でもある。

*5:あなたのタイプは[タイプ8:似非モヒカン族的義理人情主義]です。
■タイプ8になっちゃった方[あなたは似非モヒカン族のようです]
あなたの行動指針は[勇気]です。何より、自分の強さを見せ付けられる場所を望みます。
[タイプ8のあなたならこんなことはしない]
見てみぬ振り、クールにスルー
自分の記事を他人の指摘で修正する
[たまにはこんなことをすれば吉]
書き込む前に、落ち着いて、10数えてみましょう。世の中は、1か0ではないこともあるんです。

*6:↑思いっきり訂正とかしてるんだけどなあ〜