特集/障害の定義 日本における障害者の法的定義

http://www.dinf.ne.jp/doc/japanese/prdl/jsrd/rehab/r083/r083_005.html

課題


 障害年金、とくに基礎年金が精神障害者等にとって所得保障制度として十分機能していないこと、とくに障害の種類による格差が大きいことをみてきた。その原因は、肢体不自由等は機能障害の程度で能力障害(日常生活能力)を類推し、たとえば両足関節切断者は「日常生活の用を弁ずること不能」として1級と認定されるが、知的障害を含む精神障害や多くの慢性疾患は、はっきりしたルールがないままほとんど直接「基本」が評価基準として使われ、しかもこの「基本」は日常生活能力の程度を示すものといわれながら実際にはほとんど身辺処理能力区分であり、かつごく重度のもののみを対象としていることである。この結果、自分で食べられる、衣類の着脱もできる、しかし社会的自立能力が低くて就職できないという障害者が年金制度できわめて不利な状態におかれることになっている。


 したがって諸外国のように稼得状態を重視した年金給付への移行が望まれるが、もしこの方式が就労意欲をそぐなどの理由で採用できない場合には、経済面の社会的不利の程度を最もよく反映する能力障害の程度等級を作成することになる。その際重要なことは、身体障害者福祉法の項でふれたように経済面の社会的不利と能力障害との関係(両者の相対的独立と関連の変化)に関する基本的理解である。能力障害をモノサシとする障害認定基準は定期的に見直される必要がある、ということである。


 その見直しの方式とは、全国的な障害者の実態調査を行い、機能障害の種類と程度、日常生活や社会生活の能力の種類と程度に関して、どのような属性をもつグループがどのような稼得の状況であり、障害にともなう余計な出費がどうなっているかを調べ、認定基準に修正を加えるというものである。こうした基準の見直しとともに、それでも生じる不公平を減らすために学際的認定委員会で審査する事が必要であろう。これは既得権に触れる難しい問題だが、しかしどうみてもたとえば固定的身体障害と精神面の障害や難病にともなう障害との間の不公平な事態は早期の解決を要すると思われる。

4.障害者の雇用の促進等に関する法律

障害種別の格差

 職業安定法が「特別な指導を加える」としている障害者の範囲と、身体障害者雇用促進法の障害者の範囲との差は昔から問題とされてきた。前者は職業上の不利となるすべての障害者であり、後者は1960年の法制定時は身体障害者に限定され、1976年改正で精神薄弱者が一部の条項の対象とされた。ようやく1987年の改正すなわち障害者雇用促進法の制定によって、理念的にはすべての障害者が法の対象となり、職業安定法との整合をみた。


 またこの改正では従来の厚生行政の基準の「借用」から一歩踏みだし、職業面に着目した精神薄弱者の認定を地域障害者職業センターで行うことになった(この方向は1993年度からの重度精神薄弱者の認定にあたっても生かされた)。


 さらにその後、1991年度より在宅勤務が雇用率にカウントされることとなったこと、1992年度より短時間勤務(週22時間以上33時間未満)の重度身体障害者・重度精神薄弱者が雇用率にカウントされるようになったこと、1986年度からの職場適応訓練制度の適用に続いて1992年度より精神障害回復者等(精神分裂病、そううつ病てんかん)が助成金制度や職業訓練制度の対象となったことなど、法対象の実質的拡大がなされてきた。


 しかし依然として大きな格差が残されている。完全な法対象とされる身体障害者、雇用率にカウントされるものの雇用義務からはずれている精神薄弱者、雇用率にカウントされないが助成金などの対象となる一部の精神障害者、最後に相談指導程度しか援助が受けられないその他の慢性疾患をともなう障害者など、という4つのグループである。


 この最後のグループに入るものとして、たとえば小児癌回復者がある。治癒率と告知の増加を背景にして小児癌経験者で就職に困難をかかえる人が増え、表面化しつつある。癌やその治療にともなう身体的障害(内分泌障害、外見的障害、斜視、内部障害など)や知的・情緒的障害などの障害、長い療養により友達も少なく勉強は中途半端になり、親の過保護も加わっての精神的な弱さを持つなど本人の条件、さらに雇用主サイドでの「癌は死病」という偏見などが就職を不利にしていると考えられる。一部の者は各手帳の対象となるが、その他には雇用面の援助はない。


 このような障害の種類による格差は前述のように福祉や年金でもみられたが、雇用面では特に深刻な問題を生み出す。1976年の身体障害者雇用促進法改正で雇用率制度が強化され、納付金制度が導入された際に、精神薄弱者も納付金減額の対象とされた。その理由は、精神薄弱者も身体障害者同様雇用にあたって事業主に経済的負担をかけるものであり、その負担軽減をねらった納付金制度の対象を身体障害者のみとすれば、知的障害者の雇用の促進と安定を妨げる恐れがある、というものであった。事業主が精神薄弱者の雇用に消極的になるばかりか、現に雇用されている精神薄弱者を解雇して身体障害者に切り替える可能性も予想されたための措置であった。これは現実的で重要な認識であり、障害者の中の一部に限定した雇用促進対策はその他の雇用を損ねる可能性があるということである。


 現に公的機関を通じて採用寸前まで行きながら「手帳がない」、「雇用率にカウントされない」ことが分かって契約を解消される事例は珍しくない。雇用率にカウントされない障害者はもともとそこへの就職の可能性はなかったのだといえなくもない。しかし以前には障害のない求職者との競争だけですんでいた者が、制度の発足によって雇用率にカウントされる障害者とも競争しなければならなくなったことは事実である。