「中国」というセカイ系

つまり、国際社会も国内的状況も、日本が軍国主義化し、植民地主義的な侵略を展開する客観的情勢にないということが冷静に考えれば誰にもあきらかであるにもかかわらず、中国の人々がなおそのような政治的オプションへの道を進む日本のすがたを想像することを止められないとするならば、理由はたぶん一つしかない。
内田樹の研究室: 反日デモの伝える声

それは、「人は自らの置かれた状況を通してしか世界を認識できない」ということである。
もちろんそれは、単なる原則に過ぎない。
個人差はあれども、人は経験の積み重ねによって思考力を得、想像力を得、対比と連想と発想によって、その原則を乗り越えていく。
だが、その原則には誰もが一度は触れるものであり、そういったいわば思春期的な世界認識は、今、日本で「セカイ系」の名で知られている。
その代表例が、「新世紀エヴァンゲリオン」である。その作品においては、主人公自らの精神の反映が、かの世界の行く末を定めたのである。*1


「人は自らの置かれた状況を通してしか世界を認識できない」
それと中国とがどのようにつながるというのか。
それはすなわち、「中国人は、軍国主義専制国家である自らの国を「世界のひながた」としてとらえており、それこそが世界の真理であると考えている」ということである。
当然、中国にも知識人層はおり、そのような認識を過去のものとしている。
だが、少なくとも、一連のデモに参加している人々はそうであろう。
つまり、「セカイにおける国家とは常に軍事独裁を志向するものであり、だからこそ日本に対して常に危機感を持ち続けねばならないのだ」という、セカイ系的な意識がデモの参加者の共通認識となっているのだということである。
そして、その意識から答えとして導き出される意識とは、
「われわれのデモは日本の軍事独裁化に危機感を表明し、それを防ぐためのものであって、われわれがデモを起こすからこそ日本の軍事独裁化に歯止めがかけられているのだ」というものである。
それはつまり、かのデモ参加者は心のどこかで「このデモは日本のために行っているのだ」「日本国民はむしろわれわれに感謝するべきだ」という意識を抱いている可能性があるということである。
そして、そのメッセージは、もはや軍事独裁国家ではない日本に、その毒を嫌と言うほど飲まされた日本国民には、まったく通じるものではないのである。
大人の階段の登り具合から言っても、下に向かってかけられた声が上に届くことはまずない。*2


同じことが、韓国に対しても、北朝鮮に対しても言えるだろう。
そこに共通しているのは、その三国がすべて軍事独裁国家であるということである。
もちろん今の韓国はそうではない。
だが、その地下には今でも脈々と軍事独裁国家の精神が息づいているのである。
国家保安法を廃止し、軍事独裁時代の清算を!
世界・国連人権高等弁務官「国家保安法の撤廃は国際社会との約束」


もし、ただ今の極東アジアの不幸な政治状況に対して、何か原因があるとすれば、それは、「過去を美化したがる日本の老害保守派政治家の妄言」にのみあるのではなく*3、「日本を除く中国・韓国・北朝鮮の三国が、第二次大戦後すべて軍事独裁国家となってしまった」ことにも原因があるのではないだろうか。


戦後処理。
この事がアジア情勢で言及されるとき、その美しい鏡として必ず持ち出されるのが、ドイツである。
ドイツこそが理想であり、ドイツこそが模範であり、ドイツの科学力は世界一ィィィイイ!!だと、よく言われている。*4
そして、同時に、日本は駄目だ、日本は不誠実だ、日本は謝罪しろ、賠償しろと言われる。
が、三国軍事同盟の最後のひとつ、イタリアについては不思議なほど言及されていない。
今、世界で最も大きな軍事強権国家であるアメリカに付き従っているのは、イタリアも同じどころか、むしろ正式な軍隊を持つイタリアこそ、軍事面において日本よりも積極的にアメリカに貢献しているにもかかわらず。*5


ドイツの振る舞いを見ろ、ドイツの姿勢を見習え。中国・韓国・北朝鮮は口をそろえてそう言う。(ちなみに今のドイツは空前の不況に陥り、失業者は500万人、失業率は12.1%に上る。十分見習ってるジャン…orz*6
が、
それは、つまりこういう考えを基礎にしてのことである。
ドイツとイギリス・フランス・オランダ・ベルギーの関係と、日本と中国・韓国・北朝鮮の関係を等しいものとみなしている、ということである。
あくまで、それが自然であるかのように言われる戦後の国際関係であるが、
が、
イギリスは軍事独裁国家であろうか?フランスは?オランダは?ベルギーは?
むしろ、
日本と中国・韓国・北朝鮮の関係は、西ドイツと東ドイツの関係に近しいものなのではないだろうか。あるいは、西ヨーロッパと東ヨーロッパの関係と。
そのこころは言うまでもなく、資本主義国家と共産主義国家との対立である。そして、共産主義国家の多くが、軍事独裁的な面を持っていたことも忘れてはならない。
結局のところ、日本と中国・韓国・北朝鮮は、海という「壁」を隔ててきた関係に、西と東に分かれた関係にあったのだということについて、もう一度、すべての関係国が考え直すべきなのではないだろうか。
……できれば、の話だが。


自らが親に扶養されながらもその親に対して反発を抱くのが、思春期の少年の心理というものである。
中国が日本の経済支援によってその成長を重ねてきたにもかかわらず、日本に対して反発するその態度は、まさに思春期の少年であるように見える。


だが、世界はセカイではない!

*1:そして、それは監督の精神に基づいた結果でもある。

*2:それでも聞こうと努力するのが「真の大人の態度」であることは言うまでもない。そして「まず」というからにはこれが原則論であることを意味し、それが原則である以上、乗り越えなければならない面もあるということである。

*3:念のために言っておくが、これらの馬鹿な田舎者のボケ老人に責任がないとはカケラも思っていない。

*4:ええ、もう本当によく言われていますともさ。

*5:端的に経済力の多少によって語られるか否かが決まっているのだろうか。ここんとこ教えてエライ人!!

*6:もちろんこれは別問題である。