新しい怪談「姥捨てず村」


いまはちかごろ、日本中のあちこちに奇妙な村ができておったそうな。


その村は人の数こそおおけれど、互いに顔を合わすこともなく、声を掛け合うこともなく、雨が降ろうが槍が降ろうが助け合うこともなく、皆が皆年がら年中うつむいて生きておるそうな。


そんな村人達のささやかな楽しみはというと、不運にも身心を病んだり、家財を失ったりしたものを村人総出でさげすみ罵倒して日頃の鬱憤を晴らすと言うものだそうな。


ところが、そんな村で奇妙な噂がたち始めた。なんでも、居るはずの老人が実はその家にいないというのである。


そんな噂が出て、初めて村人は隣近所の様子に目を配り始めた。やれあちらの婆さんはいるのか。やれこちらの爺さんはいるのか、と。


ところがその爺さん婆さんがおることになっている家へ皆が訪ね居ていくと、その爺さんはと聞くと「出かけた」、婆さんはと聞くと「会いたくない」などと、誰もそこに本当におるのかどうか確かめられなんだという。


あまりにそんなことが続くので、村人はとうとう今まで誰も心配したことのなかった爺さん婆さんのことをしぶしぶ考え始めた。


ところが、その考え方というのが日頃のたまりにたまった鬱憤がもとになっておったせいで、またすっかりおかしな風にねじくれてしまっておったのだった。


やれ「名主が支払う慰労金をせしめていたのではないか」、やれ「村人の懐から銭をむしり取っていたのではないか」と皆が皆口やかましく言いながら、誰ひとり、爺さん婆さんのことを心配するものはおりはせなんだ。


そんな村人の中には、また息を潜めて自分たちの家の「爺さん、婆さん」を守りきろうとする者もおった。が、決して村人に向かって声を大きくすることはなかった。


結局、村人は誰も爺さん婆さんのことなど、はじめっから誰も考えはしなかったのだ。


そうして、幾人もの爺さん婆さんがあちこちの家の中で静かに息を長らえ続け、そしてその数は日を追うごとに増えてゆき、いつしかそこは「姥捨てず村」と呼ばれるようになったそうな。


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http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20100803-OYT1T01036.htm


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http://mainichi.jp/select/jiken/news/20100804k0000m040085000c.html


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