『ES』と『ペット』

『ES』は、女性マンガ家、惣領冬実の手による「男性向けのストーリー」と銘打っている作品である *1 。確かに、主人公は、遺伝子工学によって実験室内で人工的に生育された人間、秋葉亮介(コードネーム、シュロ)である。しかし、このマンガは、細胞や卵子を利用した人工クローン人間に関する倫理的な問題提起をするものではない。それについては、ほとんど「きっかけ」的にしか扱われていない。つまり、医療ドラマや生命ドラマではない。
話の本筋は、その作られた二人(主人公とそのクローン=敵役)の人間が遺伝子操作の結果、超能力生物と化し、脱出して超能力バトルを繰り広げる(二匹ではなく二人)、と枠だけ取り上げるならそうなる。だが、この話の展開を左右する軸となるのは、その超能力の対象となるもの――人間の「心」である。だが、この「心」というテーマは、どうやら最初から決まっていた訳ではなさそうである。それは、各巻のオビのコピーの差に見て取れる。それはすでに、一巻と二巻で大きく内容が分かれる。
一巻「ES00――秋葉亮介 造られた男 他人の記憶に潜り込む あなたの記憶は操作されている」
二巻「一番描きたかった『心の謎』」
そして、五巻では、「何故、人は“心”をよりどころにするのだろう。」と「記憶」ではなく、より「心」を前面に出したコピーとなる。
そして、さらに特徴的なのが、そのコピーの前に
「「あなたが好きだ」「違う・・・・・・それは錯覚よ」ESであるシュロにはじめて芽生えた感情。告白を受けた未祢の心は大きく揺れる。」
というコピーが挿入されている点である。
五巻の時点でも、確かに超能力バトルは引き続き展開されており、六巻への「引き」としての巻末の広告には「新たな戦慄へのプロローグ――ES01『イザク』復活。」と、バトルもの的なコピーが掲げられている。
しかし、『ES』の本筋がそこにないことは、ハッキリしている。
『ペット』もまた、女性マンガ家、三宅乱丈による作品である。三宅乱丈の作品にはほかに、仏教専門学校を舞台にしたハジケたギャグマンガ、『ぶっせん』があり、一般に受けるのはこちらの方だと思われる。ひるがえって、この『ペット』は、相当重い、暗い物語である。しかし、それだけ三宅の作家性、いや、なにか怨念めいたものが強く現れた作品だともいえようか。

<つづく>
以下、とりあえず項目のみ
■登場人物の差異/物語の差異
『ES』:男女の関係性。求められる「べき」ものとしての家族、恋人。
『ペット』:男同士の関係性。隠蔽されるものとしての家族、恋人。
■能力の描き方
『ES』:自然に身に付いたもの。
『ペット』:才能に基づいた訓練の結果。
■物語の結末
『ES』:セックスによる融和と予定調和
『ペット』:精神崩壊と復讐の連鎖


<反省点>
つい書き出すと長くなってしまって、どうもそれがネックになってブログの更新自体が滞りがちになる。どーしたもんかねー。

*1:書店で見かけたPOP広告のコピー